いやー、おもしろかった。何がおもしろいのかって、「笑って!いいとも」「ミュージックステーション」「ジャングルTV 〜タモリの法則〜」など、幼い頃から20年触れてきたはずのタモリ像がほんの一部に過ぎなかったこと。料理好きで、マイペースに番組を進行させて、時折奇妙な動きをするオジさん……決して間違ってはいないものの、その先に本来持っていたはずの強い性質に気づかず捉えていたことが驚きだった。
自分自身で「江頭2:50みたいな芸人だった」と比喩する意味以上に、とんでもなく頭のおかしい人物じゃねーか。というか、そこに至るまでの「人生観」と「哲学」の強度がすさまじく、タモリに対する見方がガラっと変わった。もう別人。「何かとつけて意味を見出す人間が嫌い」「結婚式はクソ」「ハングリー精神は邪魔」などと公言し、アナーキーかつ、世の中を皮肉ったような芸風(=価値観)だったなんて。最高じゃないか。
インターネッツにはお馴染みのブログ「てれびのスキマ」の管理人である戸部田誠さんが、実に3年以上の時間をかけて書き下ろしたという本著。論文レベルの周到な取材(過去の雑誌やテレビなどを網羅)に基づいている超力作であり、愛情に裏打ちされた鋭い感性で綴ったタモリの歴史そのものが詰まっている貴重な資料ともいえる。とかく、すごいもんを読んだな…という印象と誰かにタモリのスゴさを教えたくなるような読後感が堪らなく気持ち良いので、興味を持った人はぜひ「試し読み」だけでもどうぞ。
一部、引用させていただきます。
タモリはすでに4~5歳の頃から、「偽善」について考えていたという。
3歳の頃に両親が離婚し、主に祖父母によって育てられていたタモリ。ある日祖父を訪ねてきた友人が、最近見た映画の話をした。クジラを捕る場面があり、モリで突かれたクジラは血を流していたと。そのクジラは作り物かもしれないと分かったうえで祖父の友人は、「思わず、画面に向かって、両手を合わせました」と言ったというのだ。
その話を傍らで聞いていた森田一義少年は、それが一般には「偽善」という言葉で呼ばれる何物かであることを、幼いながらに嗅ぎとった。
しかし現在、タモリは「子供が怖い」という。「子供の扱い方分かんない。何か怖い。何かズバリ欠点を言われそうな感じがする」と。
それは何より子供時代の自分自身が、大人たちの欺瞞を見透かしていたという記憶があるからではないだろうか。
「5歳が俺の精神的ピークだった」とタモリはうそぶく。
タモリの哲学を参考にして実生活に生かすことはややハードルが高いものの、意味を見出さず、周囲に期待せず、目の前のやるべきことを淡々とこなす“肩の抜き方”っちゅう感覚は、頭の片隅にある引き出しに突っ込んどいてもいいんじゃないかな。
コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方 (コア新書)
- 作者: 戸部田誠(てれびのスキマ)
- 出版社/メーカー: コアマガジン
- 発売日: 2015/06/03
- メディア: 新書
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新作のこちらも楽しみ。近々、読もう。